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管理人さんを置いてくれ!

“ゆるく”復活させているオーナーさんもいます

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ある賃貸マンションでの出来事です。そこでは、管理会社に頼まずに、オーナーさんが自主管理をされています。ところが、このオーナーさん、突然やる気を失ってしまいました。週1回だった掃除が、月2度になり、1度になり…間もなく、まったく掃除をしなくなりました。

物件はたちまち汚れ出しました。まずいことに、マナーの悪い入居者が何人か住んでいたため、チラシなどの紙ゴミが、郵便受け付近の床に次々と散乱するようになりました。ほどなく、ペットボトルや空き缶なども放置されるようになりました。

駐輪場も同様でした。コンビニエンスストアの袋、コーヒー等のプラスチックゴミ、レシート、どんどん溜まり始めました。そんな異常な事態に、ご近所の方が「おかしい」と、気づき始めました。「建物脇の雑草もボウボウだ。見苦しくてしょうがない」そこで、不安に思った近くの家のご主人が、いよいよ物件内に立ち入り、覗いてみたところ…

エントランスや廊下など、共用部分の天井は蜘蛛の巣だらけ。床はホコリだらけ。骨の折れたビニール傘が転がり、歩けば、靴の裏にはこぼれた飲み物の跡がベタベタくっついてくるという、想像以上のひどい状態でした。

何より、一番気になったのは、「郵便受け周りの紙ゴミの散乱。積み上がっているんだよ。誰でも入れる場所なので、放火でもされるんじゃないかと急に怖くなった」

そこで、このご主人、入居者さんのひとりをつかまえて、「管理人さんの部屋は何号室なの?」

そういう存在はここにはいない、と聞くと、次にオーナーの電話番号を聞き出し、電話をかけ、「なぜおたくのアパートには管理人がいないんだ。管理人さんを置いてくれ」と、頼んだそうです。

ご主人、とてもご年配の方なので、賃貸住宅といえば、通常その一室には管理人さんが住んでいて、入居者の世話や、建物の掃除をするのが当たり前だと思い込んでおられたようです。

さて、この「管理人」です。1980年代の半ばくらいまでは、あちこちの賃貸住宅に管理人さんが住んでいました。ほかの入居者さん同様、物件内の一室に暮らしつつ…。家賃の徴収から建物内外の清掃、消耗品の取り替え、備品の修理、入居者さん宛の小包を預かったり、クレームを聞いたり、ときにはケンカの仲裁まで。

細かなこと、面倒なことまで、物件管理に関してはとにかく何でも引き受けてくれる頼もしい存在でした。こうした昔の管理人さんは、多くが大家さん(当時はオーナーという呼び方はほぼされませんでした)の身内の方でした。

大家さんの若い姪っ子さんなどが、家賃はタダで住まわせてもらう代わりに、管理人を引き受け、毎日一生懸命に子育てしながら、物件の面倒をみるといった例もありました。この管理人さんを「ゆるく」復活させているオーナーさんをごくまれにですが、いまも見かけることがあります。

ゆるく、ですので、昔のような八面六臂の活躍をゆだねるわけではありません。あるオーナーさんの場合、信頼できる入居者さんをこれぞと見定め、家賃を多少オマケすることと引き換えに、連絡役を担ってもらっています。

連絡役とは…、報告役といってもいいでしょう。物件をときどき見回ってもらうほか、できればほかの入居者さんともコミュニケーションをとってもらい、問題や不具合が起きていないか、定期的に報告してもらうのです。

なにしろ、この方の場合、管理会社と違い物件に実際に住んでいます。廊下の照明が切れた、台風で物が飛んできた、ガラスが割れた、駐車場に無断で車が停められている、貴重品が落ちていた…

何かが起きればたちどころにオーナーさんに報せが届きます。特に、冒頭の例のような、物件に関してご近所から苦情が寄せられるようなケースでは、こうした連絡・報告役の方がいると、話の進み具合がとてもスムースです。

さらに、ゴミが落ちていたら拾ってもらうなど、日常の簡単な掃除も頼んでおけば、繰り返しますが、当人はそこに住んでいらっしゃるわけですから、物件はいつもきれいです。加えて、こういった方がいると、物件はそもそも荒れにくくなります。だらしない入居者に緊張感を与えるからです。

たとえ管理会社に管理を依頼している場合でも、彼らの仕事の隙間をくまなく埋めてくれるので、物件がご自宅から遠いオーナーさんなどはとても助かります。ちなみに、賃貸住宅で不人気の部屋といえば、大抵、1階のエントランスそばの部屋が一番に挙げられます。

ですが、物件の管理を行おうとする立場からみると、この部屋はとても便利です。人の出入りを中心に、物件内外の様子をもっとも把握しやすい位置にあるからです。家賃を少し下げて「ゆるい管理人さん」にお住まいいただくのに、格好の舞台となるかもしれません。

ところで、冒頭のお話です。その続きです。荒れたマンションの問題は、ついに町内会の議題になり、物件の管理を放置していたオーナーさんのもとへは地元の班長さんから正式に改善が申し入れられました。


その後、しばらくして、この記事の筆者が物件を見に行くと、郵便受けの下にはプラスチックの箱が置かれていました。不要なチラシなどを捨てるためのもののようです。ですが、これではダメです。オーナーさんにはどうもやる気が戻って来ていません。

「誰でも入って来られる」「放火されるかも」

と、いう、ご近所の心配に対して、箱に紙ゴミを溜め込むのではさっぱり答えになっていないのがその理由です。

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

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